ナマズとセシウム
2012-05-16


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埼玉県の東の端に吉川というところがあります。もうだいぶ前のことですが、私はその町に暮らしていたことがあります。中川と江戸川に挟まれた水の豊かな田園地帯でした。さして名物のない町ですが、「ナマズ」が有名です。駅前に巨大な金色のナマズのモニュメントを造るくらい気合が入っています。街中には川魚料理を出す老舗の料理屋が並び、美味しいナマズ料理が食べられます。この吉川のナマズにとってショッキングな出来事が起こりました。
 埼玉県が4/1に同市中川の新川橋下流で採集した天然ナマズ2匹から体重1kg当たり130ベクレルの放射性セシウムが検出されたのです。県は中川の天然ナマズを食べないようにお触れを出しました。もっとも、食用のナマズはすべて養殖モノで、こっちの方はセシウムが検出されていませんから、料理屋で食べるナマズは大丈夫です。さて、いったいどうして天然ナマズからセシウムなのか?今回は、この問題について考えてみたいと思います。
 中川は今では排水河川のような川になっています。北は利根川、南は荒川という2大河にはさまれた関東平野のど真ん中をくねくね流れ低地の水を集めて、最後は葛飾あたりを通って東京湾に注ぎます。江戸時代初めころまでは利根川と荒川の本流が流れていたところです。埼玉県東部平野では、利根川から農業用水を引いて水田を作り、排水が中川に流れ込むようになっています。さらに、平野部に降った雨は最終的に中川に流れ込みます。ですから、原発事故で関東平野に降り積もった放射性物質がこのような河川に相当流れ込んでいると考えられます。さらに利根川を通じて群馬県の山岳地帯からも放射性物質が流れてきているでしょう。
 セシウムはイオンとなって水に溶ける物質ですが、粘土質粒子があるとそれに吸着しやすい性質があります。したがって、雨水で流される場合も粘土質粒子と一緒に流されていくと考えられます。このような微粒子は流れが緩やかになると川底に沈殿していきます。さらに、海に近くなり標高差が小さくなると満ち潮の時に海水が逆流してくる「塩水楔」という現象も起こります。中川でも吉川付近までその影響が及んでいます。薄い濁りとして水中に拡散している粘土質微粒子は、海水に触れると微粒子同士がくっ付き合うという「凝集」現象を起こし、いっきに沈殿が進みます。このようなことから、下流から河口にかけての川底にはセシウムが溜まる傾向があります。この現象はNHK特集でも紹介されました。
 ナマズという魚は、川底に住んでいます。最大60cmにも達し、日本の淡水では大型魚類です。手当たり次第に何でも食べるといってもいいほどの大食漢です。主に、ドジョウや小魚、カエルやエビや昆虫などを食べています。淡水中の食物連鎖においては頂点に位置します。食物連鎖の段階が上がるほどセシウムの濃度は生物濃縮によって高くなる傾向があります。今後、ドジョウなどを採集して放射能検査をすればセシウムの流れがより明確になるでしょう。ドジョウは泥を食べて中から小動物を濾しとって餌にしています。泥は吐き出すのですが、このような食性から川底の汚染を取り込みやすいのです。泥→底生小動物→ドジョウ→ナマズ・・・と生態系の中をセシウムが流れていきます。最後が排泄物や死骸となって環境に戻って、また生物に取り込まれて・・・ということを繰り返し、生態系の中をぐるぐる回ることになります。

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