三井化学爆発事故と劣化ウラン
2012-04-23


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4/22未明、山口県の岩国コンビナートにある三井化学の工場で大きな爆発事故が発生、36時間にわたって燃え続けました。作業員1名が死亡、11名が重軽傷を負いました。周辺の住宅にも爆発で窓ガラスが割れたりする被害が及びました。実は、この工場には大量の「劣化ウラン」が放射性廃棄物として保管されています。今回は、火災現場から350メートルほど離れていて影響はなかったと発表されていますが、万一のことを考えると本当にぞっとする出来事です。昨日は、ツイッターなどネット上でさまざまな情報が飛び交いました。今のところ、この件について、突っ込んだ報道をしているマスコミはないようです。
 劣化ウランを含む放射性廃棄物は、ドラム缶に換算して3379本分あります。これは文科省が毎年出している保管状況の報告で確認できます。最新版が平成22年度報告で3379本、21年も20年も同数ですから、まったく使われず保管されているだけということが分かります。一部報道によると、この劣化ウランはかつて化学反応の触媒として使用したもので、現在は処分できずにそのまま保管しているとのことです。このような形の劣化ウランは、実は日本中の化学プラントに今なお大量に存在しています。なお、3.11の時に千葉県でコスモ石油のLPGタンクが爆発炎上した時、隣接のチッソ石油化学五井工場に保管してあった「劣化ウラン含有触媒」ドラム缶33本に火の手が迫り保管庫の壁まで焼けています。これも、危機一髪でした。
 そもそも、「劣化ウラン」とは何でしょう?英語では”depleted uranium”と言います。“涸渇した”とか“消耗した”ウランという意味です。使った後のウランとか、放射能が無くなったとか誤解されやすい名前ですが、これは核燃料製造工程で作り出された副産物なのです。要するに、天然ウランを「濃縮ウラン」と「劣化ウラン」に分けると考えて下さい。
 100万キロワットの標準的な原発1基を1年間稼動させるためには約30トンのウラン燃料が必要です。30トンの核燃料を作るためには、山から掘り出すウラン鉱石がなんと130,000トンも必要です。130,000トンのウラン鉱を精錬して190トンの精製ウラン(イエローケーキ)が得られます。残りの129,810トンはウラン鉱滓として捨てられます。この190トンのイエローケーキは天然ウランと同じ同位体比率になっています。ほとんどはウラン238で、核分裂性のウラン235は0.7%しか含まれていません。これを濃縮することによってウラン235の割合を3〜5%まで高めた「核燃料用濃縮ウラン」30トンが得られます。この過程で分離された残り160トンは、ほとんどウラン238なので燃料には使えません。これが「劣化ウラン」です。核分裂エネルギーを取り出すことができないという意味で“涸渇した”ウランなのです。
 この「劣化ウラン」は何に使われているのでしょう?一番有名なのは「劣化ウラン弾」つまり兵器です。極めて比重の大きな重たい性質を利用して戦車の分厚い装甲を貫く特殊な砲弾として開発されました。1991年の湾岸戦争で初めて大量に使われました。その後、兵器の種類も数も増え、ボスニア、コソボ、セルビアの紛争、アフガン戦争でも使われています。後述しますが、放射能被害を及ぼす点では「核兵器」とする見方もあります。セルビアの調査では劣化ウラン弾からプルトニウムが検出され、極めて放射能レベルの高い使用済み核燃料が混ぜられた疑いも持たれています。
 民生利用では、やはり重さを利用して航空機の振動を抑えるカウンターウェイト(重り)にも使われたことがあります。日航ジャンボ機墜落事故のときは尾翼に240キログラムの劣化ウランが使われていたことも救援活動の遅れを招いた原因の一つと言われています。このときは幸い墜落火災に巻き込まれませんでした。現在の航空機にはタングステンが使われています。他には、今回の三井化学のようにウランの化学的性質を利用するときにも、ウラン原料としてこの劣化ウランが使われました。

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